TOPICS

妊娠高血圧症候群におけるCD4+T細胞や 制御性T細胞がもたらす免疫バランスの鍵を解明 ~妊娠高血圧症候群の新たな治療ターゲットとして期待~

ポイント

  • 妊娠高血圧症候群(注1)の子宮では、炎症を引き起こすCD4+T細胞が活性化し、炎症を抑える制御性T細胞(注2)が疲弊し、T細胞免疫のアンバランスが生じていることを明らかにしました。
  • 妊娠高血圧症候群は、いったん発症すると分娩以外に有効な治療がありませんが、本研究成果は、新たな免疫学的治療のターゲットとなることが期待されます。

概要

 富山大学学術研究部医学系 産科婦人科学教室 津田さやか 助教、中島彰俊 教授、富山大学 齋藤滋 学長、東京理科大学研究推進機構 生命医科学研究所 炎症?免疫難病制御部門 七野成之 講師、大阪大谷大学薬学部免疫学講座 戸村道夫 教授、女性クリニックWe! TOYAMA 鮫島梓 医師、Cincinnati Children’s Hospital Tamara Tilburgs博士らのグループは、ヒトの妊娠高血圧症候群の子宮では、炎症を起こすタイプのCD4+T細胞の一部で活性化を示す遺伝子の発現が上昇、免疫反応を抑え制御性T細胞 (Treg)では疲弊して働きが低下することを示す遺伝子発現が認められることを発見しました
 制御性T細胞は免疫応答を抑制する働きを持ち、母体にとって半分他人である赤ちゃんが拒絶されずに妊娠が維持されるために重要です。一方、母児を病原体から守るため、炎症を引き起こすタイプのT細胞の働きも必要です。正常では、制御性T細胞と炎症を引き起こすタイプのT細胞がうまくバランスをとることで、妊娠が維持されます。ところが、妊娠高血圧症候群では、両者のバランスが崩れ、胎盤への拒絶反応が起こることが一因である可能性が指摘されていましたが、どのタイプのT細胞にどのような遺伝子発現の変化が生じているかはわかっていませんでした。
 本研究成果により、妊娠高血圧症候群の治療標的となりうるT細胞分画と分子の候補が明らかとなり、新たな治療?予防方法の開発への貢献が期待されます。
 この研究成果は、2024年5月7日にスイス科学誌「Frontiers in Immunology」に掲載されました。

用語解説

(注1)妊娠高血圧症候群
妊娠中期に発症する疾患で、母体の高血圧?タンパク尿?そのほかの臓器障害を引き起こします。また、胎盤の働きの低下による、胎児発育不全を伴うこともあります。

(注2)制御性T細胞(Treg)
CD4+ T 細胞の一種ですが、免疫応答を抑える働きを持ちます。自分自身に対する免疫応答を抑え、自己免疫疾患にならないようにする役割や、胎児を母親の免疫応答から守る働きをします。

研究内容の詳細

妊娠高血圧症候群におけるCD4+T細胞や 制御性T細胞がもたらす免疫バランスの鍵を解明 ~妊娠高血圧症候群の新たな治療ターゲットとして期待~[PDF, 512KB]

論文情報

雑誌名

Frontiers in Immunology

論文名

CD4+T cell heterogeneity in gestational age and preeclampsia using single-cell RNA sequencing

著者

津田 さやか(1,3), 七野 成之(2), Tamara Tilburgs(3), 島 友子(1), 森田 恵子(1),牛島-山木 明美(1), Krishna Roskin(4), 戸村 道夫(5), 鮫島 梓(1,6), 齋藤 滋(7), 中島彰俊(1)

(1) 富山大学 学術研究部医学系 産科婦人科学教室
(2) 東京理科大学研究推進機構 生命医科学研究所 炎症?免疫難病制御部門
(3) Division of Immunobiology, Center for Inflammation and Tolerance, Cincinnati Children’s Hospital
(4) Divisions of Biomedical Informatics & Immunobiology, Cincinnati Children’s Hospital
(5) 大阪大谷大学 薬学部薬学科 免疫学講座
(6) 女性クリニックWe! TOYAMA
(7) 富山大学

DOI

https://doi.org/10.3389/fimmu.2024.1401738

お問い合わせ

富山大学学術研究部医学系 産科婦人科学教室
助教 津田 さやか 教授 中島 彰俊

  • TEL: 076-434-7357
  • E-mail: