TOPICS

分子のマスクを外すと別の分子に! クリック基から別のクリック基への位置選択的な直接変換に成功ー生体分子の多機能化や高分子材料への応用に期待ー

ポイント

  • 分子と分子を簡便に連結できるアジド基(注1)は、医薬品や高分子材料の開発に広く利用されているが、反応のコントロールが難しく、様々な機能成分を分子に搭載することは困難であった。
  • アジド保護法(注2)をアルキルアジド分子に適用したところ、特定のアジド基だけを保護(マスク)することができ、しかも分子マスクを外す際に、アジドとは異なる反応性の連結基であるジアゾ基(注3)へと変換されることを見出し、精密連結による分子の多機能化の拡張を実現した。
  • 生体機能分析ツールの多機能化や高機能性高分子材料への応用が期待される。

概要

富山大学(学長:齋藤滋)学術研究部薬学?和漢系(生体認識化学研究室)の谷本裕樹准教授らの研究グループは、アジド保護法を利用した分子連結官能基の変換法を開発しました。本研究により、分子連結などの化学的性質がアジド基とは異なる性質を持つジアゾ基への変換が、アジド基から保護を経て直接行うことができることを見出し、二つのアジド基があっても片方だけに選択的に保護が進行し、ジアゾ基へと変換できることを明らかにしました。アジド基を正確に使い分けた分子連結による精密な分子機能化を可能にする本研究は、ライフサイエンスや高分子化学などの幅広い分野での応用と発展が期待されます。
この研究成果は、2024年3月19日付けでアメリカ化学会誌Organic Lettersにオンライン公開されました。

用語解説

(注1)アジド基
3つの窒素原子(N)で構成される天然に存在しない人工の原子団(官能基)。本プレスリリースでは簡便のためN3とも表している。速やかに反応して分子と分子を連結できることから、創薬、高分子など幅広い分野で利用されている。このアジド基を持つ有機化合物は有機アジドと呼ばれる。

(注2)アジド保護法
原子団(官能基)の反応性を抑えたり、意図しない反応や化学変換を回避したりする目的で、官能基にマスクをかけて反応しない不活性な形に変える手法を官能基の「保護法」という。本プレスリリースでは、2018年に東京医科歯科大学のグループによって見出されたAmphos というホスフィン(有機リン化合物)を利用したアジド保護法を用いている。

(注3)ジアゾ基
2つの窒素原子(N)で構成される天然に一部存在する原子団(官能基)。本プレスリリースでは簡便のためN2とも表している。ベンゼンなどのジアゾ基は染料の合成原料としても知られるが、炭化水素のジアゾ基はエステル化などの分子変換や連結に用いられてきた。

研究内容の詳細

分子のマスクを外すと別の分子に! クリック基から別のクリック基への位置選択的な直接変換に成功 -生体分子の多機能化や高分子材料への応用に期待-[PDF, 676KB]

論文情報

論文名

Amphos-Mediated Conversion of Alkyl Azides to Diazo Compounds and One-Pot Azide-Site Selective Transient Protection, Click Conjugation, and Deprotective Transformation

著者

谷本裕樹 (Hiroki Tanimoto)、足立遼 (Ryo Adachi)、谷澤宏大 (Kodai Tanisawa)、友廣岳則 (Takenori Tomohiro)

掲載誌

Organic Letters

DOI

https://doi.org/10.1021/acs.orglett.4c00566

お問い合わせ

富山大学学術研究部薬学?和漢系 生体認識化学研究室
准教授 谷本裕樹