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細胞内で物質が正しく運ばれるための分子メカニズムの解明 -新規医薬品デリバリーシステム開発への応用期待-

ポイント

  • 細胞内での物質移動に使われる運び屋“輸送小胞※1”が正しい行き先まで運ばれるための“宛先”情報はこれまでよく分かっていなかった。
  • Rab GTPase タンパク質※2やホスホイノシチド※3と呼ばれる脂質が SNARE タンパク質※4と協調して“宛先”情報として働き、輸送小胞の正確な輸送を可能にしていることを見いだした。
  • 本研究の成果を用いて細胞内輸送を人工的に制御することが可能になれば、薬を細胞内の特定部位へ送り届ける新しい医薬品デリバリーシステムの開発につながる。

概要

細胞内には小胞体、ゴルジ体、リソソームといった袋状の構造からなるオルガネラ（小器官）が多く存在しますが、それらは輸送小胞と呼ばれる更に小さな袋を使って物質のやりとりを行なっています。輸送小胞が標的オルガネラまで正確に運ばれオルガネラ間で的確な連携を図ることは細胞の生存に必須です。これまで、輸送小胞上には “宛先”情報が付加されていると考えられてきましたが、その分子実態については明らかにされていませんでした。
富山大学学術研究部工学系?オルガネラ合成生物学分野の小池誠一特命助教とドイツのマックスプランク学際科学研究所?神経生物学分野 Reinhard Jahn 教授らの国際共同研究グループは、人工的に作成した輸送小胞を細胞内へ注入し、その振る舞いを観察する方法を開発しました(Koike and Jahn 2017 PNAS)。この方法を用いて調べたところ、SNAREタンパク質が宛先情報として働いており、SNARE タンパク質の種類に応じて小胞の行き先が変わることを明らかにしました(Koike and Jahn 2019 Nature Communications)。しかし、SNARE タンパク質だけを持つ人工輸送小胞は、“本物”の輸送小胞に比べると行き先の特異性が低かったことから、小胞の行き先決定に関与する他の因子の存在が示唆されていました。
本研究では、Rab GTPase タンパク質やホスホイノシチドと呼ばれる脂質が、SNARE タンパク質による行き先決定を手助けすることによって、輸送小胞が必要なタイミングに、正確な行き先へと運ばれるようになることを見いだしました。
本研究成果は、「Nature Communications」に 2024年3月20日（日本時間）に掲載されました。

用語解説

（※1）輸送小胞
直径 50-100 nm の脂質二重膜からなる小胞。出発地となるオルガネラで、同じ目的地へ運ばれるタンパク質が集められた後、その部分の膜が出芽して作られる。”宛先”情報に従って目的地となるオルガネラまで運ばれ、そのオルガネラ膜と融合することで、内包していた積荷を放出する。

（※2）Rab GTPase タンパク質
低分子量 G タンパク質に属し、哺乳類では 60 種類以上のタンパク質からなるファミリーを形成している。GTP（グアノシン三リン酸）が結合した活性化型と GDP（グアノシン二リン酸）が結合した不活性型が存在し、分子スイッチとして働いている。おのおののオルガネラに異なった種類の Rab タンパク質が局在しており、オルガネラのアイデンティティーの決定や小胞輸送に深く関わっている。

（※3）ホスホイノシチド
オルガネラ膜を構成するリン脂質の一種。イノシトール環のリン酸パターンによって7種類存在するが、おのおのが異なったオルガネラ膜に分布し、異なったエフェクター因子と結合することから、オルガネラのアイデンティティーの決定に重要である。

（※4）SNARE タンパク質
オルガネラ間の膜融合を促進する働きを持つタンパク質。膜から伸びた SNARE タンパク質が複合体を形成し膜間距離を近づけることで膜融合を促進させる。哺乳類では30種類以上のタンパク質からなるファミリーを形成しており、おのおののオルガネラに異なった種類の SNARE タンパク質が局在している。

研究内容の詳細

細胞内で物質が正しく運ばれるための分子メカニズムの解明 -新規医薬品デリバリーシステム開発への応用期待-[PDF, 570KB]

論文情報

論文名

Rab GTPases and phosphoinositides fine-tune SNAREs dependent targeting specificity of intracellular vesicle traffic

著者

Seiichi Koike and Reinhard Jahn

掲載誌

Nature Communications

DOI

https://doi.org/10.1038/s41467-024-46678-x

お問い合わせ

富山大学学術研究部工学系
特命助教 小池 誠一

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