ジオスゲニンはアルツハイマー病マウスの脳で萎縮した軸索を再び伸ばしつなげて記憶障害を回復させる
発表のポイント
- アルツハイマー病※1モデルマウスの脳の中では、軸索※2が萎縮し、神経間のつながりが途切れてしまっていることが分かった。
- しかしジオスゲニン※3を飲むと、軸索は元の場所へ伸長しつながり、それによって記 憶が改善した。
- ジオスゲニンによって軸索が正しく伸びる際の分子機序※4を初めて明らかにした。
概要
富山大学和漢医薬学総合研究所の楊熙蒙助教と東田千尋教授は、かねてより、ヤマノイモ、ナガイモ(漢方では生薬の「サンヤク」として使われている)の成分として知られているジオスゲニンの認知症への効果を研究してきました。
アルツハイマー病など認知症を根本的に治療するには「破綻した神経回路を再形成する」ことが非常に重要ですが、成体の脳においては、一度変性した(萎縮した)神経細胞の突起の修復は困難であり、特に軸索は、遠く離れた場所まで正しく再伸長して機能しなければならず、いったんダメージを受けた軸索を回復させることは、治療戦略としては実現不可能ではないかとされ、ほとんど着目されてきませんでした。
しかし今回の研究によって、
- アルツハイマー病モデルマウスの脳の中では、軸索が萎縮し、神経間のつながりが途切れてしまっているが、ジオスゲニンを飲むと、軸索は元の場所へ伸長しつながり、それによって記憶が改善すること
- ジオスゲニンによって軸索が正しく伸びる分子機序として、軸索上の SPARC※5が細胞外のI型コラーゲン※6と相互作用すること
を初めて明らかにしました。本研究成果は、根本的な認知症の治療に向けて画期的な一歩となるものです。
本研究成果は、「Molecular Psychiatry」オンライン版において、
2023 年4月22日(土)午前9時(日本時間)
(4月 22 日(土)午前1時(ロンドン時間))に掲載されます。
用語解説
(※1)アルツハイマー病
アルツハイマー型認知症のこと。進行性に脳の神経細胞が萎縮し認知機能が低下する。組織学的にはアミロイドベータの沈着(老人班)や神経原線維変化の出現を特徴とする。
(※2)軸索
神経細胞から伸長する突起であり、投射先の神経細胞に信号を伝える。
(※3)ジオスゲニン
生薬のサンヤク(ヤマノイモやナガイモ)の成分として知られる化合物。ただし実際には、ヤマノイモやナガイモ中にその形ではほとんど存在していない。
(※4)分子機序
(軸索が正しく伸びるために)神経細胞の中でどのタンパク質がどのように働いているかという仕組みのこと。
(※5)SPARC
secreted protein acidic and rich in cysteine の略。細胞内?外、細胞膜に広く発現し、細胞接着?組織修復作用をもつ糖タンパク質。中枢神経系での発現は、発達期でピークとなり、成熟に伴って減少する。脳損傷後の修復期に、発現が増加することも知られている。
(※6)I 型コラーゲン
体内に豊富に存在するコラーゲンの 1 種。I 型コラーゲンは線維形成性で、ほとんど全ての結合組織に存在し、脳内にも存在する。
研究内容の詳細
ジオスゲニンはアルツハイマー病マウスの脳で萎縮した軸索を再び伸ばしつなげて記憶障害を回復させる [PDF, 631KB]
論文詳細
論文名
Diosgenin restores memory function via SPARC-driven axonal growth from the hippocampus to the PFC in Alzheimer’s disease model mice.(ジオスゲニンはアルツハイマー病モデルマウスにおいて、SPARC が駆動する海馬から前頭前野への軸索投射によって記憶機能を回復させる)
著者
Ximeng Yang, Chihiro Tohda(楊 熙蒙、東田 千尋)所属:富山大学 和漢医薬学総合研究所 神経機能学領域
掲載誌
Molecular Psychiatry(2023年4月22日 オンライン公開)本発表資料のお問い合わせ先
富山大学 学術研究部 薬学?和漢系 教授 東田千尋
- TEL:076-434-7646(直通)または 076-434-7670(直通)
- E-mail: